日本人ことはじめ講座は、日本人らしさゆえに世界を魅了する無名の日本人を増やします。

最近はすっかり日本流に慣れたので、あまり驚かなくなっていますが、フランス人の夫が日本で暮らすようになってしばらくは、日本人のプロ意識の高さにしばしば感心していました。

・ 宅急便や普通郵便が翌日に届く

・壊れたエスカレーターが二時間後には直っている

・大工さんが日没後も電灯をともして働いている(フランスではありえない光景)

・役所の手続きが驚異的な速さで終わる(フランスでは半日コースだが、5分で終わってびっくり仰天)

・お店などで「すみません」と声をかけると、スタッフがさっと(ときには複数で)駆けつけてくれる

などなど。

夫が一番感激したのは、彼が日本でスーツを作ったときのことです。

今でこそ細身のスーツが流行していますが、夫は昔から細身のスタイルに特に強いこだわりを持っていました。細身のスーツの取り扱いが少なかった当時、日本人向けの既製品では袖の長さも合わないし、この際セミオーダーで作ってみてはどうかと、私はある店を紹介しました。

しかし夫には、オーダーメイドの仕立て屋=オヤジ向け(夫も十分オヤジの年齢ですが)、ダサさ爆発、それなのにベラボーに高いという先入観があり、なかなか首を縦にふりません。私は「まあだまされたと思ってついて来て。ちょうど新作生地の発表会があって、割引もあるらしいから」と彼を引っ張っていきました。

夫は一番のお気に入りのスーツを持参し、コレとまったく同じスタイルに仕上げてほしいと店長に頼みました。店長は、お安いご用とばかりに見本のスーツや夫の身体のあちこちを丁寧に採寸。そして目うつりするほど、いろんな生地を出してきてくれました。

ポケットはやや斜めにつけてほしい、しかも片方だけダブルポケットに、背広の前開き部分は小さく・・・・などという夫の細かい注文も店長はサクサクとこなし、オーダー完了。お値段は仕立て代込みで5万円を切りました。ちなみに生地は100%サマーウールの英国製です。

店を出たあとの夫の興奮ぶりはすごかったです。「フランスではありえない。この値段で、採寸してくれるなんて。しかも、Eゼニアのポケットチーフと携帯ストラップもおまけにつけてくれた!!君の言うとおりだったよ!!」と信じられないを連発する夫。

しかしそれから2、3日後、夫は「やっぱりパンツはもう少し細くしたい」と言い出しました。夫はひとりで店に出向いて、パンツの幅の変更を申し出たのですが、それについて店長がなにやら返してきたのだけれど、よく理解できなかったとのこと。

そこで私が電話で問い合わせると、「はいサイズ変更は承っております。ただご主人様が納得されていないようなので、今店を閉めてからご自宅まで伺って、念のため再度採寸させていただきたいのですが」とおっしゃる。

それを聞いた夫は、店長のプロ魂にただただ驚いていました。5時になったら、仕事が終わっていようがいなかろうがさっさと帰るフランス人にはありえない発想には違いないでしょう。

夜、店を閉めてから車を走らせて我が家に来てくださった店長は、「ご主人のように、こだわりをもったお客様は嬉しい。店側としてもやりがいがあるんです」と胸を張っていました。

「この道五十年の大ベテランがご主人のスーツを担当します。若造のボクなんか全く相手にしてもらえない頑固一徹の職人です。その職人もヨーロッパ人のお客様の注文なので、本場の人を納得させるものを作りたい、と燃えていますよ」

それを聞いた私はジーンとしてしまいました。この生真面目さ、ときには損得ぬきでいいものを提供したい、というモノづくりにかける心からの熱意が、日本人のクールな気質のひとつなんだよなあ。こうやって車や電気製品、時計などの Made in Japan は、世界中で信用を勝ち取ってきたんだよなあ・・・・と。

出来上がったスーツを着て試着室から出てきた夫は、「まさにボクが夢にみていたとおり!!」と破顔。鏡の前で背広のボタンを開けたり閉めたり、何度もターンしたり。

そして店長とがっちり固い握手を交わし「職人サンニ、ヨロシクオツタエクダサイ」。店長も「やった!」といわんばかりの笑顔でとても満足気でした。

その後も全幅の信頼を寄せている店長に、何着もオーダーしました。そして機会があるたびに、フランスの友人・知人に「信じられない!!」の感嘆符つきでこの店のことを話しているようです。そして今年のGWに来日した義父は、この店で夏用のズボンを新調したのでした。

*ブログでは、私的日仏文化論などの記事もアップしています。http://ameblo.jp/aenokai/entry-11570647508.html