日本人ことはじめ講座は、日本人らしさゆえに世界を魅了する無名の日本人を増やします。

2月4日(日)と25日(日)、日本人ことはじめ講座「日本の技/天満切子工房見学」を実施しました。

この日、訪れたのは大阪市内にある「藤本硝子加工所」。大阪に二つしかない切子工房のうちの一つです。

代表の藤本幸治さんは御年88歳、日本で最高齢の切子職人です。

私と藤本さんの作品との出会いは、約2年前。奈良のあるギャラリーでのことでした。中から漏れてくる温かな光に誘われて思わず足を踏み入れた瞬間から、美しい切子が施されキラキラと輝くランプの数々に心奪われました。

当時86歳の職人さんによる作品と聞き、本当に驚きました。失礼ながらそんなお年の方が作ったとは思えないほど、おしゃれで愛らしい切子だったからです。

「どんな人がこんなに優しげな作品を生み出すんだろう」と思いながら2年。今秋、大阪で開かれた作品展でご本人にお会いし、ぜひ作業所にうかがわせてください、とお願いして実現した講座です。

藤本さんの切子の特徴は、花模様を描き出す点。江戸切子や薩摩切子は直線を主体としたデザインですが、曲線を多用した草花を描き出せるのは、おそらく日本でも藤本さんしかいないと思われます。つまり、天満切子=花切子は絶滅危惧種なのです・・・。

藤本さんの作業場所は、田舎の納屋のような懐かしい匂いがします。昭和25年にこの道に入って60年、この場所で切子を生み出し続けてきました。

はじめに、花模様を描き出す妙技を実演していただきました。下書きもないまま、グラインダーにガラスを当てて薔薇や、柳に燕などを描きます。これには一同ため息。

 

 

藤本さんの手元をみつめる参加者

 

簡単な目印だけをつけて可憐な花々を描き出していきます。これぞ職人技!!

 

次に、サンドブラストの体験。サンドブラストとは、細かい砂を吹き付けて曇りガラスにする技法です。

希望者には事前にシールを渡し、好きなイラストを描いて切り抜いてもらいました。切り抜いて穴の空いた部分に砂が吹き付けられると、そこだけ白濁して曇りガラスになります。

 

 

40年前に導入したというサンドブラストの設備は、藤本さん自らメンテナンスしながら使い続けていまだ現役です。

切子も自動で大量生産できるようになってからは価格面で太刀打ちできず、曇りガラスを生産するためにサンドブラストの設備を導入したそうです。

それゆえ藤本さんの作品は、切子とサンドブラストが融合したデザインも可能で、それが他の切子にはない魅力となっています。

好きなイラストを描いた自作のシールをガラスのコップに貼りつけます。

 

 

 

ノズルから勢いよく出てくる砂(金剛砂)をコップに吹き付ける作業中。

 

切り取られた花びらの部分に砂が吹き付けられ、曇りガラスになります。

 

作業のあと、藤本さんを囲んで茶話会を行いました。

日本のガラス工場が安価な外国製品に押されて次々に倒産した話、オートメーションで作られるようになった切子に手仕事を奪われ、従業員に別の就職先を世話した話など、藤本さんは淡々とお話しになっていましたが、相当なご苦労があったと思います。

切子からいったん離れ、一時は儲かるサンドブラストの生産に集中していましたが、現役引退後、ビール瓶に切子を刻んで趣味として楽しんでいたところ、ある社長の目に留まり、照明器具への装飾を依頼されるようになったそうです。「それが私の出世作です」と藤本さん。

 

また吉野での少年時代のこと、陸軍の少年飛行兵だったころの思い出話、テレビ出演したときのエピソードなどに話は及び、7年前に亡くなった奥様の話をするときには、涙ぐんでいらっしゃいました・・・・。

参加者からの「今の日本人に伝えたいことは?」との問いには、「もっと日本のことを考えてほしい」。少年兵として国を守った方の言葉は重いと思います。この言葉の本当の意味を今の日本人がどれほど理解しているのか・・・・。

 

お話に聞き入る皆さん

 

最後に藤本さんの作品をめいめいに買い求めて、見学会は終了しました。

私も事前に藤本さんに花瓶の加工をお願いしており、見学会当日に受け取りました。

 

ポンポン菊と蝶々です。イメージどおりに仕上げてくださって大満足!!宝物にします!!

 

 

藤本さんを囲んで記念撮影

 

事後、「本当に楽しかった」「美しいものが見れて幸せでした」「ガラスは冷たいものと思っていたけど、藤本さんの作品には温かみを感じます」「藤本さんの後継者がいなければ花切子はこれで終わりになってしまう・・・・なんとかならないものか」「職人の技法のみならず藤本さんの素晴らしい人柄に触れて、今日は思い出に残る日となりました。ありがとうございます」などのお声を頂戴しました。

打ち合わせ含めて何度か藤本さんにお会いしていますが、やはりその温和なお人柄とよく口にしていらっしゃる「人様のお役に立てるなら」という公への思いが作品に反映されているのだな、と思います。とにかく美しく温かい。ものには作った人の魂が宿るといいますが、これは比喩でもなんでもなくその通りなのです。私も最近、手作りの工芸品をぼちぼち集めているので、大量生産で生み出されたものとの違いを感じています。

誠実にモノづくりをしてきた方にはかなわないなとも思います。声高に何かを言うわけでもなく、真面目にコツコツをいいものを作っている職人さんがきっとまだまだ日本にはいるんでしょうね・・・・。彼らに日の光を当てることはできないものか、と考えながら帰路につきました。

ご参加くださった皆様、ありがとうございました。